堪らなくなって、ウサギは、おばさんの腕から飛び出しました。
そして、傘を開き上空に飛び上がろうとしていたトトロにしがみ付きました。
おばさんは、ウサギに向かって思わず叫びました。
「シロ!カンバック!」
シロとは、おばさんがウサギに付けようとしていた名前であり、
なぜ、戻っておいでではなく、カンバックなのか、
その時のおばさんも実はよく分かりませんでしたが、
おばさんは、もう一度「シロ!カンバック!」と大声で叫びました。
しかし、ウサギ(シロ)は、トトロにしがみついたまま、
おばさんの元に戻ろうとしませんでした。
グングン。トトロ、小トトロ、ウサギ(シロ)は天高く上昇してゆくのでした。
そして、おばさんは、只只それを見守ることしかできませんでした。
夜空に星のような光になって、シロもトトロも小トトロも見えなくなってしまいました。
おばさんは、花いっぱいになった小さな庭で、しばらく、ぼんやり、佇んでいました。
ピピピ。
携帯のアラーム音がなり、おばさんが目覚めました。
なんとこのおばさん、目覚めるとおじさんになっているのでした。
おじさんは、歯を磨くと、まず育てている花達に水遣りをします。
このおじさん、いい年したおじさんなのに夢見がちで困ります。
このおじさんの夢は花咲かじいさんになることです。
枯れ木に花を咲かせることができたなら
こんな素敵な事はないと本当に思っているのでした。
おじさんは今日見た夢を思い出してこう思いました。
この年で、初めて、一人暮らしになるにあたり、
もちろん孤独は嫌なのだけど、まずその孤独を楽しめるようになってから
ペットを相棒にすべきだな。と。
でも、ペットロスになった経験から、寿命は長い動物がいいなあ。と。
できたら相棒は動物より、やはり人間がいいなあ。と。
おじさんの夢は尽きません。
おじさんの夢はこのおじさんが生きている限り尽きることはないでしょう。
でも生きる為には働かなきゃいけないのが、無職のこのおじさんの頭が痛いところです。
今日もおじさんは、輩のようなファッションで、コーナンに花の苗を買いに走ります。
いつかまたおばさんが、夢の続きを見たいとき、見られるように
小さな庭を花いっぱいにしてなきゃいけないからね。
では、これにて、おしまい。
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